PORTFOLIO

MOON

MOON vol.5 / 風花 / #E6EBFO

2020.12.1

− 風花 −

Contents

◆ はらりはらりのざわめき/KAWAGUCHI Yuko
◆ 「風花」/HIRAI Yuta
◆ あのときの皮膚感覚/MIYAKITA Hiromi


はらりはらりのざわめき


世屋という地域がある。
丹後半島の東南部にある、山間の小さな村だ。

中でも、標高が高い位置にある「木子」集落は、
豪雪地域とされている。

11月中旬。
落ち葉も舞い上がる強い風に、ススキの穂が波打つ。
澄んだ空気に、秋晴れのプリズムが輝く。

その輝きは、はらりはらりと舞う風花のイメージと重なる。

ツーンとした耳に轟く風の音が、
これから訪れる季節への想像を掻き立てる。

さて、今年はどんな冬になるのだろうか。


KAWAGUCHI Yuko
profile, portfolio


「風花」


二十歳くらいのとき、
「風花」という映画を観た。
相米慎二監督の遺作となった作品。

社会から脱落してしまいそうな男と女が、
旅を通して自らを見つめ直していく。
そんな再生の物語だった。
今また観直せば、
当時とは全く違うように観えると思う。

自分は、叩けば埃しか出ないような
失敗だらけの人生を送ってきてしまったので、
失敗が明るみに出てしまった人が、
激しい非難や人格攻撃に合っているのを見る度に
胸が苦しくなる。

自分との違いに不寛容な世の中で、
自分は寛容でありたいと思うけど、
それでもやっぱり分かり合えない人もいる。

違いを否定することで自分を知ろうとしていた、
自分にもそういう時期があった。
若さというよりは未熟さが重ねた失敗。
自分がどこから来たのか忘れてはいけない。
譲れないものはあるけど、
自分の信念が切っ先のようになってはいけない。

一息つこう。

そもそも、自分の歪さが、
どこにも当てはまるわけがない。
この歪さに出来ることを考えよう。

また、さよならだ。
別れからまた、やり直す。


HIRAI Yuta(CRAB WORKS)
https://crabworks.jp


あのときの皮膚感覚


2016年1月のこと。

磯砂山*1の頂上で生まれたままの姿で立っている映像*2が撮りたくて山に登った。山頂は空気が澄み渡っていた。ワンカット3分ほどの絵を撮ろうと考えカメラの位置を決めて準備にとりかかる。監督、脚本、撮影、出演、編集は全て私一人。録画ボタンを押し、いざ本番と心に決めて服を脱ぎ、決めた位置に立った。

体の表面が痛かった。そのまま立ってると寒すぎて身震いが始まり作品を壊してしまいそうだった。そうして、私がまともに立っていられたのはほんの1分ほどだった。

寒くて痛いと学生時代を過ごしたアメリカのイリノイ州が蘇る。冬は-30℃になるような土地で、裸で外に1分いたら命に関わるようなことを聞いていた。外を歩くとまつ毛に霜が降りて鼻水は薄氷のようになる。だいたい目と鼻しか出てないから通りで誰かに会っても分からないのだ。そんな寒いところで最初の冬を越して春の訪れを感じたときに、生まれてはじめて春の喜びを理解して、高校生の頃に合唱させられた「大地讃頌」が頭から離れなくなったことをふと思い出した。

撮影はあっという間に終了した。やれやれと服を着て機材を片付けていると、白く舞うものが目の前をちらついた。とても印象的な風花が私を応援してくれているような気がして、体が熱くなってじんとした。

*1 京丹後市峰山町にある標高661mの山で、天女が舞い降りたとして知られている。

*2《body-point zero(ビデオ 2分30秒) 》宮北裕美「Point A ⇆ Point B」(2016年 、ozasahayashi_project (KYOTO ART HOSTEL Kumagusuku ))にて発表した。雲や太陽の光だけが微妙に変化し、ヒトは動かず絵のようにも見える不思議な効果に仕上がった。

宮北裕美「Point A ⇆ Point B」
Photo by Ujin Matsuo

宮北裕美「Point A ⇆ Point B」(2016年 )

MIYAKITA Hiromi
https://miyakitahiromi.com/


編集後記

風花とは、晴れた日に雪が花びらのようにちらちら降ること、あるいは、積もった雪が風に飛ばされ舞う様子をいう。季節を表す言葉には、実に美しいものが多い。

2020年がこんな年になるなんて、想像できなかった。
人と会ってコミュニケーションを取ることが困難になり、「ディスタンス」を求められるようになった。「密を避けよう」と日々神経を尖らせていると、心の距離まで離れていってしまう気がする。何が正しいか、どう行動すればいいのか。価値観なんて人それぞれだが、その価値観が評価される時代になった。

ものづくりが好きだ。発信することが好きだ。
Webサイトを立ち上げ、プラットフォームをつくり、『MOON』を通して自分の気持ちを形にしている。とても幸せなことだ。距離を取らなければならない時代だからこそ、ネットを通じて得られる情報の価値は高くなる。どんなメッセージを届けるのか、真価が問われている。

「風花」という言葉には、凛とした「覚悟」のような響きを感じる。
これから冬が来る。丹後は、日本は、どんな景色になるだろうか。今年もあと一ヶ月。「覚悟」を決めて、進んでいきたい。


2020.12.1 KAWAGUCHI Yuko


『MOON』とは…
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