PORTFOLIO

MOON

MOON vol.8 / 保存 / #CCCCFF

2021.3.1

− 保存 −

Contents

◆ 保存するということ/KAWAGUCHI Yuko
◆ 「保存」/HIRAI Yuta
◆ Today’s One Plate/MIYAKITA Hiromi
◆ 風景/MORI Atsumi


保存するということ


「保存」という言葉は、私にとってかなり身近である。デザインデータを作っているとき、command+Sはもう無意識であり、何か作業をするたびに手が動いている。最近はペーパーレスになってきたので、書類もデータ化することが多い。仕事以外でいうと、写真だって、データで保存することが当たり前になった。私の幼少時代、母親は、写真を印刷して「アルバム」にまとめてくれていたが、今の世代の親たちは、「アプリ」で共有しているようだ。ライフスタイルに合わせて、保存の方法も変化している。

私は日記を書いている。ただそれは、今日起きたことを感想文にまとめるという類のものではなく、一日の行動をアプリ上のカレンダーにつけていくという、いうなれば「行動の記録」だ。寝る前、今日のカレンダーを見直す。いつどこで、何をしていたのか振り返り、予定と実際の行動が違っていたら、すべて忠実に修正する。そのことが心の整理につながり、明日へのリセットになる。毎日の自分を「記録し保存し続ける」ことで、生きていることを実感しているのかもしれない。

そもそも保存とは、「そのままの状態を保っておくこと」である。世界遺産や種の保存など、保つことで後世に伝えられることはたくさんあるし、私たちも多くのことを、残された資料や文献から学んできた。保存は進化に不可欠だ。医療や研究現場など、保存の力が必要な分野は山程ある。人間がこれからも発展するためには、私たちのライフスタイルに合わせて、保存の精度をアップデートし続けなければならない。

技術は日進月歩だ。多くの有識者が、競って世界を変えていく。そして保存形式も、時代に合わせて変化する。でもきっと、その本質は変わらない。

あらゆる逆境を乗り越えた世界は、きっと強くなる。

私は、何が残せるだろうか––、ふと、そんなことを考える。


KAWAGUCHI Yuko
profile, portfolio


「保存」


東日本大震災から10年が経つ。

あの日のあの時のあと、
次々と報道された映像の衝撃は今も忘れられない。
為す術もなくアパートの部屋でそれを観ていた自分は、
初めて正面から生きるや死ぬと向き合った。

2012年9月。
1年半経ってから、
先輩とふたり、2泊3日で東北に行った。
仙台空港に着き、レンタカーを借りて、
太平洋側の沿岸部をまわったり、
福島第一原発から20kmのところへも行った。
たびたび、言葉を失ってしまう風景に出会った。
ほとんど写真を撮らない旅になった。
実際に自分の目で見ておいてよかったと思う。

起きてしまった悲しい出来事。
その事実を受け止め、何を想像できるか。
その想像を、何にどう使うのか。
自分はたまたま直接的にそれを被らなかっただけ。
たまたま離れているところで辛い思いをしている人たちは、
ただの知らない人か、隣人か。
優しい想像力を持った人たちは、
被災地に手を差し伸べるのがとても早かった。
そんな人たちの活動の一部分を
インターネットの向こうから受け取りながら、
本当に小さなことしかできなかったけど、
為す術もなくから抜け出したいと思って自分も動いた。
自分と自分以外、無知と無関心、想像と行動、
あのとき色んなことを深く考えたし、
もっと色んなことを知りたいとも思った。
そんなふうに強く思ったのはあのときが初めてだった。

自分の中にちゃんと保存しておきたいと思うのは、
悲しみの記憶だ。
喜びは自分で生み出すことができる。
悲しいことは、忘れないようにして、
また同じ思いをしなくてもいいようにすることに
なるべく繋げていきたい。
戦争もそう、
昔はじいちゃんやばあちゃん達から当時の話を聞けたけど、
知っている人たちはどんどんいなくなっていく。
悲しかったこと、辛かったこと、
そう感じていた人たちの気持ちを
ちゃんと保存して伝えていかないと、
記憶の輪郭がぼんやりと薄れてきた頃、
それらはまた突然やってくるんじゃないかと思う。


HIRAI Yuta(CRAB WORKS)
http://crabworks.jp


Today’s One Plate


煮干しを一晩置いて朝はその出汁でお味噌汁なんて生活に憧れますが、食事の準備の前にお鍋に水をいれて出汁パックをダイブインさせてしまうのが現実です。その時に一緒に乾燥しいたけ、細く切っただし昆布、桜えびを一緒につけて戻してから調理するのが私の定番です。乾物は栄養にも味覚にもいい裏方仕事をしてくれます。レンズ豆が追加されたり、自家製乾燥ゴボウを入れることもあったり。前は切り干し大根も入れてましたが匂いが気になってやめました。自分の好みで微調整しながら定番って決まりますよね。

長期保存の定番や発酵食品などは地元にプロの方がたくさんいらっしゃるので、私はそちらをいただきたいので自分では作りませんが、常備菜にするオイル漬けや酢漬けを作るのは好きです。私のキャロットラペ愛をここで語ることはしませんが、人参のほかに、紫キャベツ、紫玉ねぎ、赤芯大根など紫や赤のお野菜ってオリーブオイル酢漬けにすると、保存容器の中のビネガーがピンクに染まって、その可愛さに心が踊ります。

ハーブ類は枝ごとキッチンに吊るしておけば、よい感じに乾燥してくれて、美しい流線を保ってくれるし、ベイリーフを一枚ちぎって鍋に放り込むだけでスープに香りの魔法がかかります。フレッシュハーブと違い、ドライハーブは鮮やかな色はありませんが、滋味深くなりますね。

我が家のキッチンより本日のワンプレートをご用意してみました。



MIYAKITA Hiromi
https://miyakitahiromi.com/


風景


2月のよく晴れた暖かい日、じっとしているのがもったいなくて、自転車に乗って家の近くの川沿いの堤防を散歩してみた。

漕ぎ出すと、思った以上に軽やかに進む。
このところずっと家に閉じ籠っていた体に、日光と風が心地よくて、ぐんぐん漕ぎ進める。

堤防のすぐ下の家々で遊ぶ子どもたちや畑で作業をする人たちを眺めながら、散歩途中に立ち話をしているおばちゃんたちの前を通り過ぎ、ロードバイクとすれ違い、ウォーキングのおじさんを追い越して、どんどん前に進む。

同級生もたくさん住んでいた団地。
小学生の頃は遠く感じたけれど、こんなに近かったんだなぁ。
反対側の河川敷のグラウンドからは、テニスと少年野球の賑やかな歓声。

しばらく走ると、右手に桜並木が現れる。
左手には木々の隙間に川の水面がきらきらと輝いている。
桜の咲く頃はきれいだろうな。

桜の木越しに向こうの市街地に目をやると、昔はなかった大型店舗の建物が目に入る。
数年前に高速道路のICが開通し、今も大きな道路の工事が進んで、日に日に景色が変わっている。

桜並木に目を戻すと、ポイ捨て禁止の看板。
中学生の頃、冬になると部活でよく走らされたこの道で、いつも目にしたダジャレの看板。まだあったのか!
坂道ダッシュの坂道に、茶畑の肥料のにおいもそのまま。

まわりには、BBQをする人、犬を連れて散歩をする人、車を停めて昼寝をする人、咲き始めた梅を眺めながらお弁当を食べる人、ヤギを連れている人!
みんな思い思いにこの陽気を楽しんでいるようで、堤防の上は賑わっている。

さあ、ここから先へは実は行ったことがない。
今までのホーム感から一転、急によそ者になったような気持ちになりながら、やはりめいめいにぽかぽか陽気を楽しむ人の間を縫って、先に進む。

おじさんが連凧をどんどんどんどん揚げていくのをわくわくと眺めながらカーブを曲がると、今日の目標地点に着いた。

欄干のない木造の橋は、川の水かさが増すと流れるようになっていることから「流れ橋」と呼ばれており、実際に数年前の豪雨でも流されている。
時代劇の撮影にもよく使われてきた、地元では有名な名所だが、来るのは初めて。

橋が流されるなんて想像できないくらい、遥か遠くにある川の流れを覗き込みながら、300mを超える橋をのんびり渡る。
河川敷の茶畑と橋をセットで写真に収め、対岸の町を少しぶらぶらしたら、再び流れ橋を渡って帰路に着く。

低くなり始めた日差しの中、来るときより少し重くなったペダルを漕ぐ。
行きが軽快だったのは、追い風のおかげだったのかもしれない。
真正面からの風を浴びながら、それでも気持ちは軽やかに、足に力を込める。

家の近くまで帰ってくると、川に架かった鉄橋を、電車が通る。
小さい頃から、ずっと変わらず見てきた風景。

保存していきましょうと言うほどの景色ではないかもしれない。
けれど、自身を取り巻く環境や街の景色の変化に、目まぐるしさや少しの寂しさを感じる中で、いつでも変わらない堤防の風景に、少し安心感を覚えた。


MORI Atsumi
元・丹後在住。現在は京都市内でデスクワークの日々。


編集後記

雪が解けて、地面がスカッと見えると、春が来たなと感じる。山道ならなおさらだ。日に光る春塵が眩しい。今年は、この暖かさが本当に待ち遠しかった。
春は出会いの季節。たくさんの思い出を作りたい。

2021.3.1 KAWAGUCHI Yuko



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