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MOON

MOON vol.23 / 衣更え / #daeabe

2022.6.1

− 衣替え −

Contents

◆ 衣替えをしよう/KAWAGUCHI Yuko
◆ 「衣更え」/HIRAI Yuta
◆ ドイツより/MIYAKITA Hiromi
◆ 視界の隅のニット/MORI Atsumi


衣替えをしよう


夏がくるたび、冬がくるたび、「衣替え」をするのが面倒で、「ラベリング収納」にシフトした。

ラベリング収納とは、収納ボックスや収納場所にラベルを付け、ものの「居場所」を決めてやることである。タスクに終われる日常、少しでも考える時間を減らしたいと思うことが多くなった。頭の中を、できるだけシンプルにしたい。そんな時、ラベリングはとてもいい。どこに何を置いたかすぐ分かるので、迷わない。探す手間も省ける。ものがそれぞれの居場所にキチンと収まっていると、安心できるようにもなった。

職業柄だろうか、デザインのデータも、フォルダごとに分けて「ラベリング」されていないと気持ちが悪い。個人でデータを管理していたとしても、不在時に急な修正が入るなどして、第三者にデータを触ってもらわなければならない場合がある。そんな時、誰が見ても「最新データがどこにあるか」が伝わらないと、データが先祖返りする(最新のデータではなく、古いデータで更新をかけてしまうこと)など、最悪なミスが起こってしまう可能性がある。データをラベリングできてこそ、デザイナーだ。

ここまでラベリングについて語ってきたが、今回のテーマである「衣替え」に話を移そう。衣替えのいいところの一つが、「断捨離」だ。服を入れ替えるタイミングで、着ない服を整理し捨てる。ラベリング収納では、この「捨てる」タイミングを逃してしまう可能性がある。もともと物持ちはいい方なので、「捨てる」こと自体が苦手なのだが、ラベリング収納のおかげで拍車がかかる。写真のデータだってそうだ。日付をふったフォルダに分けて格納し、それをクラウドに上げスッキリした気になっているが、本当はどうでもいい写真は山ほどある。衣替えは、必要なものかどうかを判断する、バロメーターとしての役割もあるのだと思う。

そういう意味では、やっぱり、衣替えという習慣を大切にしたくなる時がある。試しに、夏服をハンガーにかけ直してみる。
「今年はこの服を着てどこに行こう」と想像しながら並べていく。去年のエピソードを思い出し、ついついにやけてしまう。何年前に買っただろうか、クローゼットのスペースを取り続けているだけの、短い丈のワンピース。捨てようと思うのだが、花柄がかわいいので、同じくハンガーにかけ直す。キャラクターもののストール。絶対つけないけど、これもかわいいので飾ってみる。
全然断捨離できないけど、時間ばっかりたっていくけど、これはこれで、頭がスッキリしていくような気がした。

空は晴れ、緑は生い茂り、日に日に陰が濃くなっていく。梅雨が明けたら、夏が来る。無駄に喉が乾く季節だが、まるで光合成ができそうな晴れの日は、Tシャツ一枚で外に出たい。

「衣替えをしよう」。
この気持ちが、新しい風を吹かせてくれるのかもしれない。


KAWAGUCHI Yuko
profile, portfolio


「衣更え」


「LOCAL」とプリントしたTシャツを、
ひさしぶりに刷った。

9年ぶり。
もうそんなに経ったのか、と思う。

その間にも、
「早くまたLOCALつくってよ」
と声をかけてくれる友達や先輩がたくさんいた。

でも、自分が、その気にならなかった。
再びやるには時間が空きすぎてしまっていて、
同じことしてもしょうがないと思っていたし、
どうせやるなら、更新できる物語が欲しかった。


フラっと会いに行った地元の先輩が、
それを着てくれている。

朝食が終わり厨房を出て、
夜勤明けの友達を朝温泉に誘って迎えにいくと、
それを着てくれている。

離れた町や街で暮らしている友達が、
それぞれの現場で生活している姿がタイムラインに流れてくる。
それを着てくれている。

こんなに時間が経ったはずなのに、
まだ、着てくれている。
ヨレヨレになったLOCALを、
今も着てくれている人がいる。

理由はわからないし、聞かない。
ただ、自分自身、もう一度それを着たくなった。
続けてもらっていた話の続きに、
自分もまた入れてもらいたくなった。


素人の自分がイラストレーターを適当に触ってつくったロゴは、
もう見た目のバランスに違和感を感じてしまうようになっていた。
相談したら、地元の友達がデザインを引き受けてくれた。

せっかくだから、新しく写真を撮りたいな、と思った。
相談したら、地元の友達が撮影を引き受けてくれた。
相談したら、地元出身の友達がわざわざ帰省してくれて、モデルを引き受けてくれた。


大喜利のお題みたいなもの。
与えられる場所。

出会ったり、別れたり、
それぞれの事情や動機を携えて、
選択せず始まった話の顛末を、
選択できる場所でもあると思う。


いくつもの季節を過ぎて、
また新しい気持ちで、それを着たいと思う。


HIRAI Yuta(CRAB WORKS)
https://crabworks.jp


ドイツより


二年ぶりにヨーロッパにやってきました。初夏の心地よい季節です。日向の幸せを味わっていると、曇ってきて急に冷える気候なので、風除けの上着を脱ぎ着する日々を過ごしています。日本の夏は蒸し暑くて、あまり快適ではないので、日常的に屋外で食事をしたりお茶を飲んだりすることはしませんが、こちらに来ると太陽からの栄養を感じます。

今滞在しているドイツも日本と同様四季はありますが、夏でもとても寒い時があるので、こちらに暮らしていたら、冬物をしまって夏物に入れ替えるということはせずに、ずっと冬服も出したままにしそうな気がします。帰国したら梅雨が待ってますから、手持ちの洋服を重ね着したりして寒さに対応しながら、気持ち良い太陽をたくさん浴びようと思います。

ポストカードのような風景が広がる
滞在中のRaketenstation Hombroich(ノイス 、ドイツ)より

MIYAKITA Hiromi
https://miyakitahiromi.com/


視界の隅のニット


衣替えをスパッとできる人に憧れる。
暑くなってきたしそろそろ夏物を出さなきゃなぁと、しまっていた服を出してきて、代わりに、コートやモコモコのセーターは仕舞って。
早々に身軽になって、きちんと、新しい季節を迎えに行っている人。

私はと言えば、毎年、そろそろと思いながらいつまでも季節外れの洋服が居座っている。
大がかりな衣替えは面倒になってしまうことがわかっているからなるべく簡単に済むようにしているつもりだし、やってしまえばすぐなのに、いざ前にすると、不思議なくらい、途端にやる気がどこかへ溶け出してしまう。

仕事も、大変そうなものはついつい後回しにしてしまうし、夏休みの宿題だって、いつも最後の1週間で慌てて仕上げていた。試験勉強は結局一夜漬けだし、毎朝が1分1秒との闘い。
もうこの手のネタには事欠かない。

やらなきゃなぁと思っている時間は気が重い。早く終わらせてしまった方が楽なのはわかっているのに、この腰の重さは何だろう。
まぁおかげで、ぎりぎりで帳尻を合わせる力は着実に鍛えられていると思っているけれど。

と、こんなことをカッコつけて書いたところで、何の救いにもならない。せめて、お仲間の気持ちが少しでも楽になるのを助けるくらいだけれど、それもその人のためにはならない気がするので、さっさとこの原稿を書き上げて、目の端で恨めし気なオーラを放っているようにすら感じる分厚いカーディガンを片付けることにしよう。


MORI Atsumi
元・丹後在住。現在は京都市内でデスクワークの日々。


編集後記

昨年の年末くらいから、友達が私に植物をプレゼントしてくれようと、自宅のモンステラを株分けして育ててくれていた。でも、年が明けた頃、「思わぬアクシデントで、少し枯れてしまった」と、残念そうに連絡がきた。友達が持ってきたモンステラは、葉っぱが茶色くなっていた。それでも嬉しかったので、そのまま引き取って育ててみた。水挿しし、ひたすら放置。水だけを変える日々。そのうち葉っぱはすべて枯れ、茎だけが残った。春が来ても、変化はなかった。

4月の終わり頃だろうか、ふと、枯れた茎の間から新しい茎が伸びているのに気がついた。あれよあれよと成長し、クルクルとした葉っぱが現れた。「モンステラってこんな風に伸びるのか!」と、驚くとともに、感動した。「生きてるんだな」。生命ってものを、実感した。

衣替えの季節。なんだかいろんなことを、悶々と考える日々である。


2022.6.1 KAWAGUCHI Yuko


『MOON』とは…
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